0.ゴルフはやらない

「何をするのも手遅れになってからね…」
2003年5月の連休、ゴルフをはじめると告げると妻はあきれたような笑顔を浮かべながらそう言い放ちました。臆病で面倒くさがりや…周りが皆やっていることをやりたがらない…そういう性格が災いしていろいろな事に遅れをとってきたことを20年以上一緒にいる妻はよく知っています。車の免許をとったのも29歳、海外出張するにはどうしても車の運転をする必要があることがわかったとき。英会話学校に通い始めたのは35歳、駐在員としてアメリカに実際に赴任した後のことでした。
ゴルフはこのままやらずに終わるのか、と思っていた43歳の春、大阪から転勤してきた同じ会社のI氏による4ヶ月にもおよぶ(さすが営業、粘り強い!)説諭によって遂に「これは避けては通れない」と自覚(錯覚??)するにいたり、本格始動を決意したのでした。

もともとはゴルフをわざと避けて通っていたわけではなかったんです。ただSEとして25歳で某コンピューター会社に入社、同年結婚、妻は即専業主婦、ということで時間的にも経済的にも余裕がなかったというのが正直なところです。(世はバブル絶頂期でしたが…)
そんな私にも人事異動にともなって海外出張のチャンス(当時はピンチと思っていましたが…)が回ってくる事になりました。免許もなく、英語もあいさつがやっとの状態だったので一回目は上司の渡米にタイミングを合わせ(要は父兄同伴ってやつですね)上司の運転で何箇所かのオフィスをまわり丸暗記のプレゼンテーションをやり、ラッキーにも相手方に要望をのんでもらい「なかなかうまくいってるね」とその上司と話をしていたとき
「明日はオフだけど何する予定なの?」と上司。思えばこれが悪夢の始まりでした。
「何もする事がないのでプールサイドでイッパイやりながら明後日のプレゼンの用意をするつもりです。」
「ふーん、M君はゴルフしたことあるの?」
「いいえ、今まで機会が無くて…」
「あす日本からTさん(上司の上司です)が来る事になっていて一緒にゴルフするんだけどM君も一緒に回ろうよ」
「いやー、ご迷惑かけるだけですから、遠慮しておきますよ。本当にクラブを握った事もないんですから…」
「大丈夫だよ、パブリックなコースでうるさくないから日本とは違うしね。大丈夫大丈夫。じゃ決まり。明日8時にロビー集合。」
仕事も強引でしたがこのときも強引でした。「はぁ…」と力なく返事をしてちょっと(まだこのときは)憂鬱な気分になったのでした。翌朝3人でゴルフ場へ、いくらなんでもいきなりは無理だろうということでまずドライビングレンジです。Tさんのクラブと手袋を借りてはじめてクラブを握りました。「ま、ともかく2、3球打ってみ」ということで訳もわからず、ビュン、ビュン。ボールにはかすりもしません。いくらなんでもここまで難しいとは思っていなかったので、気持ちはあせります。さらにビュン、ビュン。ボールがコロコロと2mほど転がっていきました。

「こりゃあかんなぁ…」と大阪出身のTさん。
それから約一時間上司の手取り足取りの指導(そのあいだTさんは芝生の上であきれて寝てました)。なんとか空振りはなくなりゴロでも前には転がるようになったころ、
「ほなそろそろ行こか」
と明らかに不機嫌そうなTさん。上司からは
「7番アイアン一本もってともかく打っては走れ」
と耳打ちされ、いざコースへ…(無茶ですねぇ…)Tさんはなかなか厳しい人で藪に打ち込んだらともかく探してそこから打つ、バンカーはちゃんと出るまで打つ、ともかく打ったら走る…まるで”地獄の特訓”でした。10年くらい経って”上司”に再会したときに
「あのときのTさんはすごかったねぇ…完全にいじめだったなぁ」
と人ごとのように(まぁ人ごとですが…)言われました。ハーフが終わると完全なグロッキー状態で
「後半はお2人で…」というと
「アホか」
と一蹴され後半9ホールを回ってクラブハウスにもどったときにはもう目もうつろで、スタッフの人に
"Are you OK?"ときかれ、心の底から覚えたての
"Exausted!"という単語を搾り出したのを覚えています。

ホテルに戻って皮のむけた手を見ながら
「ゴルフはやらない!」
と心に決めたのでした。


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